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M83(南の回転花火銀河):アルマ望遠鏡が描いた低温の分子ガスの地図

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黒い背景に、オレンジ色に光る筋が集まってできた渦巻銀河を、ほぼ真正面から見た画像です。中心を明るい棒状の構造が横切り、塊が点々と連なる腕が何本も、外側へ渦を巻きながら伸びています。
アルマ望遠鏡で見たM83です。オレンジ色の筋は低温の分子ガスで、分子雲や細長いフィラメント状の構造に集まっています。中央を横切る明るい筋は銀河の棒状構造で、塊が点々と連なる腕はその両端から外側へ渦を巻いて伸びています。この画像に星は写っていません。アルマ望遠鏡が記録するのは可視光ではなく、ミリ波だからです。J. Koda et al. - ALMA (ESO/NAOJ/NRAO) (サイズ変更) · CC BY 4.0

チリにあるアルマ望遠鏡の新しい画像は、渦巻銀河M83を星の光ではなく、低温のガスが放つかすかな電波でとらえています。このガスは新しい星の材料です。ガスを測定した結果、その密度と温度を主に決めているのは、若い星よりも、銀河の回転、棒状構造、渦状腕であることがわかりました。

星の材料であるガスで見るM83

M83は「南の回転花火銀河」とも呼ばれ、うみへび座の方向、約1,500万光年の距離にあります。ふつうの写真では、星とちりでできた明るい渦巻銀河に見えます。アルマ望遠鏡は、チリのアンデス山脈にあるチャナントール高原に電波アンテナを並べた望遠鏡です。この望遠鏡がとらえるのは可視光ではなく、低温のガス雲に含まれる分子が放つミリ波です。

こうしたガス雲が重要なのは、ほとんどすべての星が、ガス雲の収縮によって生まれるからです。星は輝き始めると周囲のガスを温めるので、ガスはそれ以上収縮しにくくなります。その一方で、銀河の回転がガスをかき混ぜ続けます。これらの作用が組み合わさって、銀河が新しい星をつくる速さが決まります。

M83がこうしたガスの研究に向いている理由は2つあります。まず、M83は天の川銀河によく似ています。天の川銀河も、中心に棒状構造をもつ渦巻銀河、つまり棒渦巻銀河です。次に、M83はほぼ真正面から見える銀河(フェイスオン銀河)なので、腕も棒状構造も腕と腕の間のすき間も、重なり合わずに見渡せます。

ガスの状態を決めるのは星ではなく銀河の構造

この画像は、幸田仁氏が率いた研究から生まれたもので、その論文は2025年に学術誌『The Astrophysical Journal』に掲載されました。天文学者は低温のガスを調べるとき、一酸化炭素(CO)分子を目印にします。研究チームは、COが特定の2つの波長で出す電波、つまり2本のスペクトル線でM83の地図をつくり、約150光年の大きさの構造まで見分けました。波長の短いほうの線は分子がより高いエネルギー準位にあるときに出るので、ガスの密度か温度が高くないと強くなりません。そのため、2本の線の強さの比が、ガスの温度と密度を知る目安になります。

この比は銀河の構造に沿って変わります。腕と腕の間のすき間では低く、腕と棒状構造で高くなり、中心部で最も高くなります。腕と棒状構造でのこの上昇は、ガスの密度か温度、またはその両方が約2~3倍になっていることを示しています。比の上昇は、星が生まれていない腕の部分でも見られます。つまり、そこでガスの状態を変えているのは星ではなく、腕そのものです。若い星の集団の近くでは比がさらに高くなりますが、それはごく狭い範囲に限られます。

著者らの結論は、M83の円盤にあるガスの大部分の状態を決めているのは銀河の回転、棒状構造、腕であり、新しい星による加熱は星のすぐ周囲にしか及ばない、というものです。天の川銀河やほかの棒渦巻銀河を調べたこれまでの研究も似た結論に達しているため、著者らは、この傾向が棒渦巻銀河に広く見られるものだろうと考えています。

M83の見つけ方と見ごろ

M83の位置は赤経13時37分、赤緯−29°52′です。この赤緯のため、北緯約60°より北ではまったく昇りません。東京では、南の空で最も高くなるときの高度が約24°です。それほど高くはないので、南の空が建物などでさえぎられない場所を選びましょう。南半球では見つけやすい天体で、南緯約60°より南では沈むことがなく、南緯30°付近ではほぼ頭の真上を通ります。

10月のM83は太陽に近い方向にあるため、観察できません。年末に向けて明け方の空に戻ってきて、4月中旬には太陽と正反対の方向にあり、真夜中に最も高くなります。5月から9月にかけては夕方の空に見えます。

M83は見かけの等級が約7.5等で、空で最も明るい渦巻銀河のひとつです。地平線から十分に高く昇る場所なら双眼鏡でも見えますが、写真で見るような渦巻きの形ではなく、小さく淡い、ぼんやりとした光にしか見えません。北緯50°近いヨーロッパからは、望遠鏡でも見にくい天体です。1781年にパリで観測したシャルル・メシエは、「最大限に集中して、やっと見える」と書き残しています。NASAは、最も観察しやすい月として6月を挙げています。6月は、M83が夕方の空で見やすい位置にある時期です。ただし、この画像に写っている低温のガスは、目でも、どんな光学望遠鏡でも見ることはできません。このガスはミリ波を放っていて、それを記録できるのはアルマ望遠鏡のような電波望遠鏡だけだからです。

出典とライセンス

  • アルマ望遠鏡(ALMA観測所)「A swirling galaxy」(2026年10月5日) — 画像と、その内容の説明(星形成の材料である低温のガス分子からの光)。1,500万光年という距離、M83が天の川銀河に似ていること、ほぼ真正面から見えること。画像のライセンスはCC BY 4.0(https://www.almaobservatory.org/en/copyright-notice/ による)。https://www.almaobservatory.org/en/audiences/a-swirling-galaxy/
  • ヨーロッパ南天天文台(ESO)今週の画像 potw2640a(2026年10月5日) — 同じ画像の最初の公開。研究論文へのリンクと、可視光で見た姿との比較。https://www.eso.org/public/images/potw2640a/
  • Koda, Egusa, Hirota et al., The Astrophysical Journal 986, 29 (2025)『Dynamically Driven Evolution of Molecular Gas in the Barred Spiral Galaxy M83 Traced by CO J = 2–1/1–0 Line Ratio Variations』 — 分解能46パーセク(約150光年)のCO 2–1/1–0線強度比の地図。比は腕の間で低く、棒状構造と腕で高いこと(密度か温度が約2~3倍)、星形成のない腕でも高いこと、電離水素(HII)領域の近くではさらに高いこと。星による加熱などの影響は局所的で、ガスの状態は銀河の構造と回転で決まること。棒渦巻銀河に広く当てはまる可能性があること。https://doi.org/10.3847/1538-4357/add1dc
  • NASA ハッブル・メシエカタログ「Messier 83」 — うみへび座にあること、見かけの等級7.5、最も明るい渦巻銀河のひとつであること、双眼鏡で見えること、6月が最も見やすいこと。https://science.nasa.gov/mission/hubble/science/explore-the-night-sky/hubble-messier-catalog/messier-83/
  • SIMBAD(CDS)「M 83」 — 位置(赤経13時37分00.9秒、赤緯−29°51′57″、J2000)、V等級7.52。東京(北緯35.7°)での最大高度は、この赤緯から求めました。https://simbad.cds.unistra.fr/simbad/sim-id?Ident=M83
  • JPL Horizons — 2026年10月から2027年7月までの太陽の位置。M83を観察できる時期を求めるのに使いました。https://ssd.jpl.nasa.gov/horizons/
  • SEDS メシエ天体データベース「Messier 83」 — シャルル・メシエが1781年2月17日にパリでM83をカタログに載せ、「最大限に集中して、やっと見える」と記したこと。北半球の中緯度からは最も見にくいメシエ天体のひとつであること。http://www.messier.seds.org/m/m083.html

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